ハルジオンが道端で揺れていました。僕(アルジ)が好きな春の雑草花の一つです。地味で小振りな花と華奢な少女のような立ち姿が何とも可愛らしい…。
彼女はおよそ百年前には、れっきとした園芸品種としてアメリカから輸入されました。
「きゃー可愛い!」
当時の貴族や富裕層に持て囃されている場面が目に浮かびます。だって、本当に可愛いですよね。
ところが残念なことに彼女の幸せな生活は、そう長くは続きませんでした。彼女はその華奢な見た目に合わず、繁殖力がとても強かったのです。少しくらい踏まれても刈り取られても、決して屈することなく復活してしまいます。なのでお屋敷の庭だけに留まらず、ついには何処にでもありふれた雑草に…。昨日までは店頭であんなに大事に扱っていたお店も、ありふれた道端の雑草をわざわざ売るはずもなく、とうとう店頭からも追い出され、ただの雑草に身をやつすのでした。
それから何年か経ち、彼女も一人の雑草として、庶民の間で平和に暮らそうとしていました。
「ハルちゃん、今日も可愛いね」
街行く人々にそれなりに愛されながら、逞しく子孫を残し、変異種も出来て帰化しようとしている彼女。ところが、栄養のある所が大好きな彼女は、手入れの行き届かない貧乏な人々の庭に目立つようになります。そういう庭は食料として作物を植えることが多いので、肥料分が豊富なんですね。そして作物にとっては邪魔者でしかない彼女は、やがてこんな言葉を浴びせられるようになります。
「またこんな所に貧乏草が生えてるぞ」
そうなんです。彼女にとっては誠に有難くない不名誉な俗名まで付けられてしまいます。ハルジオンの別名は「貧乏草」。しかも事態はそれだけでは収まらず、心無い人達に、さらに酷い言葉をかけられるようになりました。
「そんな花、摘んだり刈ったりしたら、貧乏になるぞ」
全くの濡れ衣ですが、傷心のまま彼女は、さらに身を潜めるように生きていこうとしていました。
しかし、事態はそんな彼女にさらに追い討ちをかけるのです。彼女は強い繁殖力だけでなく、他の植物の生育を抑制する性質もあり、刈り取りにも負けず、その上除草剤にも耐性があるので、容易に駆除出来ないとして、ついには政府によって農産物や環境に被害を及ぼす恐れのある「要注意外来生物」に指定されてしまったのです。
こうして人々の心から完全に遠退いてしまった彼女。その花言葉をご存知でしょうか?
「追想の愛」
あの愛されていた日々を、ひっそりと懐かしむ彼女にピッタリの言葉です。
喋れない彼女の代弁をするとすれば、
「アチキは…」
(アルジとしては、意に反して連れて来られて酷い目に合っている彼女が話すとしたら、ここは「わたしは…」ではなく「わたくしは…」でもなく、あくまで「アチキは…」なのです…)
「アチキは好きで来たんではありんせん。そちら様の都合で呼んでおいて、最後には犯罪者扱いでありんすか? 要注意外来生物? それはオタクら人間の事でありんしょう?」
だそうです。
沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。ベベん、ベン〜♪
注意
史実に基づいていますが、一部筆者の創作が入っています。学術的に価値はありませんので、ご容赦を。笑